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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

……じつはその、殿様にも、近ごろ鶉に御執心と伺いまして、さっそくさる上方の鶉通に、千金も惜むなと申しやり、漸く手に入れたこの名鶉を、道中二人の鶉師が付きッきりで早打ち駕を打たせ、昨晩、江戸へ到着いたしたばかりなので。はい、夜明けも待ちかねて、ご献上に伺いましたようなわけ。……いやもう日頃から、何か何かと家内とも心がけておりました次第で。ま、お気に召せば、こんな欣しい事はございません』

鶉もさすがと見えたが、金銀の蒔絵籠、緋の房飾り、善美をこらした物である。忠秋は、感心して見ていたが、ふと近習を振向いて、こういいつけた。

『これを見ては、とても見劣るが、これまでわしの飼って来た鶉をみな、庭先へ並べてみろ』

家臣はすぐ、邸内の鶉小屋から数十の鶉籠を持出して、庭へならべた。おそらくは、名鶉とくらべて見るお心でもあるかと一同思っていると、忠秋は、すくと立って、

『今日限り、この道楽はやめた。籠の鶉はみんな放せ、一羽も残すな』

と、命じて、

『さて。わしも登城の時刻』とばかり、身支度に奥へはいってしまった。

商家の主は、色を失って退きさがった。以来それを気に痛んで、家に引き籠ったまま、後難を惧れていると、時たってから人伝てに聞いた忠秋は、