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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

うずらの羽虫

文字どおりなこの大人の、“ままごと棚”一組の価は、当時の金で並製七、八両から上棚だと十五両もしたとある。

これほどな田沼も、一子の山城守意知が、やはり贈賄の遺恨から、江戸城中の桔梗の間で斬り殺された事件で、一挙に没落してしまった。

彼の蓄財も、もちろんすべて吐き出された。だが田沼には矢場女上がりの愛妾があって、これはまあ例外な処分ですまされていたらしい。だからその妾の仮親の医師道有の孫道栄の時代になって迄、まだ祖父の頃に諸家から贈られた付け届け物の鰹節、蝋燭、半紙などを、みみッちく出しては使っていたそうである。だが、それを知っている辻駕の駕かきなどは、提灯の蝋燭が失くなると、いやがらせに、

『ええ今晩は。――道栄さん、お達者ですか。またお明りが切れましたから、ご先祖の罪ほろぼしに、一つお蝋を上げておくんなさい』と、道栄宅へ、手を出しに行くのだった。すると道栄は、何ともいえない嫌な顔をしながらも、奥からカビが生えて変色した蝋燭にいくらかの小銭をつけて、潜り戸の隙から外へ、栄養の悪そうな細い手を黙って出すのが毎度だったそうである。

うずらの羽虫

史上には良吏の例も少くはない。