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うつくしいにほんのれきし
美しい日本の歴史
吉川 英治
「週刊文春」1959(昭和34)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页
性花斉放
――するとそのうち、潮田又之丞の番が来た。――又之丞もほかの人と変りなく『永らくお世話になりました』と、伝右衛門へしずかにさいごの礼をのべて、庭先の白い死の座へ消えて行った。
黙然と、伝右衛門はあとの彼の小袖をたたみかけていた。それにはまだ又之丞の若い肌のぬくみさえ残っている。するとその袂のうちにふと伝右の手へ触った堅い物があった。『……はて何か?』と怪しみながら取出してみると、それは紫の小帛紗にくるまれた女性の琴の爪であった。『ははあ、あの若者の秘めていた恋人はこれだったのか』
武骨な伝右老人も、生前には一ト言も自らその事にふれていなかった又之丞の恋を的確にいま見た気がして、つい涙を禁じえなかったという。
こんなのも、今日にはどう映るだろう。まるで別世界の星である。だが、元禄期の青少年がみんなこうした浪漫派だったなんて事は決していえない。むしろ元禄の大部分の世間はデカダンな爛熟期でもあったのだ。だから或はこんな例などが逆に珍重されて語り草になったのかもわからない。
性花斉放
性の点でも、近来ザラに活字では見あたる範囲のことが、なぜ私などには口では語り難いのか。