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うつくしいにほんのれきし
美しい日本の歴史
吉川 英治
「週刊文春」1959(昭和34)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页
又之丞の恋
――或る時、その吉宗が、大奥からお表へ出る境の杉戸で、吉宗を送って来た奥女中と、表方の小姓とが、そこを閉める瞬間に、そっと手を触りあっていたのを、吉宗がちらと見つけた。
何しろ男子禁制の大奥の女人たちには、ここの杉戸を媒に、小姓の手へ触るぐらいなことが最大な愉しい機会だったらしい。だがその日の男女は、やりかたが下手だった為につい吉宗に見られてしまった。すると吉宗は、こう言ったというのである。
『あまり度々はするなよ』
ここが菊池氏の講演のオチだった。極まって、聴衆は一せいに拍手したものである。おそらく今の若い聴衆にはこんな浪漫は素通りしてしまうだろう。いや拍手があればその中の古めかしい顔を見さがして、その事ではきっとおかしがるに違いない。
又之丞の恋
きみ、講演てえのは、挿話が大事なんだよ、挿話でよろこばせといて、主旨を呑み込ませるんだよ。というのが菊池氏のいつも言っていた講演の秘訣だった。それに倣って、以前は私も駄弁などこころみたことがある。
義士のうちで、潮田又之丞は年少者の方だった。口かずも少なく、武士には柔弱すぎるとも見える。それに一党中での美男でもあったという。