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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

皇居文明開化に開く日

一ト話ししてゆくことがままあった。

千葉さんは典型的な宮中の、つまり寄人らしい風骨の歌人であった。明治から三代の天皇につかえたというのが何よりのご自慢である。

わけて明治天皇のはなしというと時をわすれてはなしこまれる風だった。私も興のままに伺っては、ついその場かぎりで忘れてしまった事の方が多いけれど、忘れえない幾つかの話もある。

天皇が指揮官として整列を命じられるときというと、極っていつも容易に兵列が揃わない。とかく凸凹がちになる。で陛下は、いちいち側へ行って、その兵の姿勢を直される。

どうも変だ変だと、ほかの武官たちが首をひねッているうちに、やっとその原因が判明した。兵隊たちの意識的な現象だった。故意に分らないほどずつ、列から出たり引っ込んだりしていた兵が少なからずあったらしい。すると天皇がツカツカ進んでいってその兵の姿勢を正す。つまり兵隊たちは天皇のお手に触って貰いたかったものなのである。

皇居文明開化に開く日

ある朝、千葉さんが私へ言った。『吉川君、東京じゅうで、電燈がいちばん遅く灯いた所は、どこだか知ってる?』『さあ。いずれ場末でしょうか』