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うつくしいにほんのれきし
美しい日本の歴史
吉川 英治
「週刊文春」1959(昭和34)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页
『いや、もう東京全市にランプなど見られなくなっていたのに、まだ何年も蝋燭でいた所があるんだ。皇居ですよ。皇居といっても、宮内省にはいの一番に電燈も布設されていたが、明治天皇のご起居なすっていた一郭だけが、いつまでも京都御所以来のままな古風な百目蝋燭でお過しでしたよ』
これが千葉さんの前おきである。そして、話の骨子は、相手の私から『なぜ?』と訊いて貰いたいらしかった。
文明開化の恩恵として電燈ほど利便あきらかなものはない。なのに明治天皇のお座所を中心とする諸殿だけは、宮内省やほかの官衙がすべて電燈化されても『電気にしていい』というお許しがないのだった。
『陛下はやはり古風がお好きなのかもしれない』
宮内当局は内々こうも考えてみた。しかしほかの事では洋風化も決してお嫌いな様子ではない。いや進取の御気風は積極的な方ですらあった。で、折あるごとに、大官たちは電燈のこころよさ、火災の危険もないことなど、それとなくお耳に入れてみては、そこで『いかがでしょう、御便殿なども』と触れてみるが、陛下は『まあよい、まあよい』で、いつか二年余も経ってしまった。
すると宮内官吏の或る者が、自分のふと気づいた儘を、上司へそっと告げてみた。