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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

気に入らねえ紋太夫、十八万六千石をちょろまかそうてんだ、けちけちしねえでいっぺん芸妓の総上げでもやってくれ、ばか者め、縛り首だぞ」

戸が開いて誰かはいって来た、お次にいる金吾だろうと思って、「どうだうまいだろう」と云ったが返辞がない。「誰だい」こう云って振返ると、濛々たる湯気の中に卵のように白い膚と芥子の花のように赤いものが見えた。

「なんだ金吾、妙な浴衣を持って来たな」

こう云って湯槽から出たとたん、若殿は火傷でもしたように叫び、慌てて湯槽の中へ逆戻りをなされた。よく脂肪の乗った艶つやとまるい素膚、僅かに腰を掩っている緋色の湯具、おそれと羞らいに上気した顔が、湯気を押分けて嫋々と現われたのだ。

「いかがあそばしました」お次にいた金吾武吉郎が、若殿の叫び声に驚ろいて戸を開けた。

「お召しでございますか」

若さまは、ただ指さしをするばかりだった。金吾はそこに居竦んでいる腰元を見て苦笑し、手まねで給仕口から出てゆかせた。

「ああびっくりした」若さまは茹って赤くなった体から、不動明王のように湯煙を立てながら出て来た。

「おらあ癇性で人に体を触らせたことがねえ、まして女なんぞに来られて堪るものか、江戸の大名なんてみんなこうするのか」