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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

紋太夫は溜息をつきながら汗を拭いた。「なんというばか者、いや馬鹿ばかしいことを、……ではみんな隠れているというわけだな」

「はい、こんどは若さまが鬼でございますから、みんな隠れているのでございます」

「出てまいれ」こう紋太夫が絶叫した。「おまえもいって呼んで来い、そして若殿をお捜し申すのだ」

「でも――若さまが鬼でいらっしゃいます」

黙れと叱られた腰元がとんでゆく。紋太夫の声でまず窓井益造が現われた。次で腰元たちが二人三人と来る、金吾が来る宙野が現われる、いちばん最後に若さまが、蹌踉とよろめきながら出てまいられた。

「よう紋太さんおめえもへえるか、いやなに紋太夫そちもはいるか」若さまはこう云って五十塚によろけかかった。「こいつあ面白え、まざった者の鬼だぜ、いいか」

「おだまりあそばせ」紋太夫は人にはわからないように力いっぱい若殿の腕を掴み、上座へ伴れていって坐らせた。「――将軍家おめみえ前の大切なお躯でござる、かような軽がるしいお遊びは相成りません、お付のそこもとたちも慮外が過ぎる、心得ましょう」

叱りつけて置いて、紋太夫は立った。なにしろ一味の重鎮が攫われたのだから、じっとしてはいられない。