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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

一

一

「すまない、そんなつもりじゃあなかったんだ、酔ってさえいなければよかったんだが、どうにもしようがない、本当にすまないと思ってるんだ」

半三郎はこう云って頭を垂れた。不健康な生活をそのまま表明するような蒼ざめた艶のない顔である、しまりなくたるんだ唇、ぶしょう髭の伸びている尖った顎、焦点のきまらない濁った眼、すべてがいやらしいくらい汚れた感じであった。――金之助は静かなまなざしで友のようすを眺めた。彼の濃い眉毛やひき緊った唇や、高頬の線のはっきりした顔だちは、いずれかというと凌烈な印象を与えるほうなのだが、いま友を見る眼つき表情はなごやかに温たかい色を湛えていた。

「もう少し時日があれば都合のつくあてはあるんだが、相手がどうしても待たないんだ、じかに家へ取りにゆくと云うんで、なにしろあのてあいは本当にやりかねないもんだから」

「どのくらい要るのかね」

「五枚もあればさし当りなんとかなるんだ」

「さし当りでなくきれいに片をつけるにはどの位要るんだ」

「きれいにといって」半三郎は眼をあげたがすぐに俯向いた、「――それは十枚くらいあるとなんだけれど、しかしそれは、相手も細工をした賽などを使っているんだから」