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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

金之助は友の言葉を聞きながして立った。手文庫の中をみたが到底それだけはない、母に頼むつもりで、廊下へ出てその部屋へゆくと、客があるとみえて話しごえがしていた。彼はちょっと考えたが、炉の間へはいって、小間使のむらを母のところへやった。母親はすぐに来たけれども、金の額を聞くと眉をひそめてこちらを見た。

「そんなにたくさんでどうなさるの、あなた母さんがお金の蔵でも持ってると思っていらっしゃるんじゃないの」

「この分はお返し致します、急に入用なもんでいちじ立替えて頂くだけですから」

「返してお呉れでなくってもいいけれど、そんなにたくさんなんでお入用なの、月々の定りの物もあげたばかりでしょう」

「どうしても要るんです、お願いします」

母親はきつい眼で睨んだが、唇には微笑がうかんでいた。黙って居間へゆき、ひき返して来ると、紙に包んだ物を渡しながら云った。

「佐竹の由利江さんが来ておいでなのよ、あなたになにかお頼みがあると仰しゃっているのだけれど」

「公郷がもう帰るでしょうから」

「公郷さん、お客は公郷さんだったの」母親は身を離すようにして息子を眺め、初めてわかったというふうに頷いた、「――そう、それでなのね、……いいえいいの、ではお帰りになったら知らせて下さい」