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ふとん
蒲団
田山 花袋
「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页
「そして一体、どうして生活しようというのです?」
「少しは準備もして来たんでしょう、一月位は好いでしょうけれど……」
「何か旨い口でもあると好いけれど」と時雄は言った。
「実は先生に御縋り申して、誰も知ってるものがないのに出て参りましたのですから、大層失望しましたのですけれど」
「だッて余り突飛だ。一昨日逢ってもそう思ったが、どうもあれでも困るね」
と時雄は笑った。
「どうか又御心配下さるように……この上御心配かけては申訳がありませんけれど」と芳子は縋るようにして顔を赧めた。
「心配せん方が好い、どうかなるよ」
芳子が出て行った後、時雄は急に険しい難かしい顔に成った。「自分に……自分に、この恋の世話が出来るだろうか」と独りで胸に反問した。「若い鳥は若い鳥でなくては駄目だ。自分等はもうこの若い鳥を引く美しい羽を持っていない」こう思うと、言うに言われぬ寂しさがひしと胸を襲った。「妻と子――家庭の快楽だと人は言うが、それに何の意味がある。子供の為めに生存している妻は生存の意味があろうが、妻を子に奪われ、子を妻に奪われた夫はどうして寂寞たらざるを得るか」時雄はじっと洋燈を見た。