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いもがゆ

薯粥

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

……稽古は未明にかぎっていた。ちょっと時刻に遅れてゆくと終ってしまう。人数は少しずつ殖えて、いつか三十人あまりになったが、毎朝の薯粥は必ずみんなに出していた。――たとえ薯粥にもせよ、あれだけの人数へ欠かさずやるのは容易いことではない。そう思っているうちに、惣兵衛はいつかその場の雰囲気に強く心を惹かれるようになった。隼人の稽古ぶりは凛烈であったが、終って鍋を囲むときになると、にわかに温かい、なごやかな空気がみんなを包む。早朝のはげしい稽古のあとで、師弟が膝をつき合せて粥を啜るのだから、なごやかな感じに包まれるのは当然だろうが、それは寧ろ隼人のゆたかにおおらかな人柄からくるものらしかった、また慎しやかに微笑を湛えて接待する妻の七重の姿も、その場に明るい楽しい色彩を添えていた。――あの仲間にはいって、いっしょにあの粥を啜ったらさぞ楽しいことだろう。惣兵衛はそう考えて思わず足を進めようとしたことさえあった。

季節は真夏になって、七月にはいった或る早朝のことだった。例になく早く、まだ足許も暗い時刻にいってみるとちょうどこれから稽古が始まるというところへゆき合わした。