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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
」
二
やがてこの座敷へ通されて来た三十前後の町人風の男は、京橋の中橋広小路に同商売の菓子屋を営んでいる松沢という店の主人庄五郎であった。
「おや、お珍しいところで……。お前さんも御参詣でしたか。」と、お杉は笑って迎えた。
「わたしは講中の人たちと一緒にきのう来ました。」と、庄五郎も笑いながら言った。「さっきこの宿へはいるうしろ姿が、どうもお前さん方らしいので、尋ねて来てみたらやっぱりそうでした。」
「わたし達は神奈川をけさ発って、お午ごろに参りました。」
「それじゃあ誘い合せて来ればよかった。」と、言いながら庄五郎は少し眉を皺めた。「おかみさんといい、義助さんといい、みんな揃って怪我をしていなさるようだが、途中でどうかしなすったか。」
藤沢の宿で飛んだ災難に出逢ったことを、お杉と義助から代るがわるに聞かされて、庄五郎はいよいよ顔色を暗くした。彼は低い溜息を洩らしながら、座敷の片隅に寝ころんでいる四郎兵衛の顔を覗いた。四郎兵衛は熱でも出たように、うとうとと眠っていた。
あしたは鎌倉へ廻ろうか、それとも真っ直ぐに江戸へ帰ろうかというお杉の相談に対して、庄五郎は思案しながら言った。