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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
有喜世新聞の話
一
S君は語る。
明治十五年――たしか五月ごろの事と記憶しているが、その当時発行の有喜世新聞にこういう雑報が掲載されていた。
京橋築地の土佐堀では小鯔が多く捕れるというので、ある大工が夜網に行くと、すばらしい大鯔が網にかかった。それを近所の料理屋の寿美屋の料理番が七十五銭で買い取って、あくる朝すぐに包丁を入れると、その鯔の腹のなかから手紙の状袋が出た。もちろん状袋は濡れていたが女文字で○之助様、ふでよりというだけは明らかに読まれた。
有喜世新聞社では一種の艶種と見過して、その以上に探訪の歩を進めなかったらしく、単にそれだけの事実を報道するにとどまっていた。鯉の腹から手紙のあらわれたことはシナの古い書物にも記されている。鯔の腹から状袋が出ても、さのみ不思議がるにも当らないかも知れない。殊にその当時七十五銭で買われるくらいの大鯔ならば、なにを呑んでいるか判ったものではない。記者もそのつもりで書き流し、読者もそのつもりで見過してしまったのであろうが、僕は偶然の機会からその状袋の秘密を知ることが出来たのである。
といっても、明治十五年――そのころは僕がようよう小学校へ通いはじめた時分であるから、その時すぐに判ったのではない。