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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
二
森君が田島さん夫婦に歓待されたことは日記を見てもよく判る。こうして彼は八月十一日を宇都宮で迎えた。彼の日記のおそろしい記事はこの日から始まるのである。
二
十一日、陰。ゆうべは蚊帳のなかで碁を囲んで夜ふかしをした為に、田島の奥さんに起されたのは午前十時、田島さんは予の寝ているうちに出社したという。きまりが悪いので早々に飛び起きて顔を洗い、あさ飯の御馳走になっているところへ、田島さんはあわただしく帰り来たり、これから日光へ出張しなければならない、丁度いいから一緒に行こうという。田島さんにせき立てられて、奥さんに挨拶もそこそこにして出る。停車場に駈けつけると、汽車はいま出るところなり。二人はころげるようにして漸く乗り込むと、夏の鳥打帽をかぶりたる三十前後の小作りの男がわれわれよりも先に乗っていて、田島さんを見て双方無言で挨拶する。やがて彼は田島さんにむかいて「あなたも御出張ですか。」といえば、田島さんはうなずいて「御同様に忙がしいことが出来ました。」という。それを口切りに、二人のあいだにはいろいろの会話が交換されたり。だんだん聞けば、予の留守のあいだに、日光の町にいたましき事件が突発して、かの磯貝満彦という青年紳士が何者にか惨殺されたるなり。