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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
蜘蛛の夢
一
S未亡人は語る。
わたくしは当年七十八歳で、嘉永三年戌歳の生れでございますから、これからお話をする文久三年はわたくしが十四の年でございます。むかしの人間はませていたなどと皆さんはよくおっしゃいますが、それでも十四ではまだ小娘でございますから、何もかも判っているという訳にはまいりません。このお話も後に母などから聞かされたことを取りまぜて申上げるのですから、そのつもりでお聴きください。
年寄りのお話はとかくに前置きが長いので、お若い方々はじれったく思召すかも知れませんが、まずお話の順序として、わたくしの一家と親類のことを少しばかり申上げて置かなければなりません。わたくしはその頃、四谷の石切横町に住んでいました。天王さまのそばでございます。父は五年以前に歿しまして、母とわたくしは横町にしもた家ぐらしを致していました。別に財産というほどの物もないのでございますが、髪結床の株を持っていまして、それから毎月三分ほど揚がるとかいうことで、そのほかに叔父の方から母の小遣いとして、一分ずつ仕送ってくれますので、あわせて毎月小一両、それだけあればその時代には女ふたりの暮らしに困るようなことはなかったのでございます。