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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
お安という女はそれを怨んでいて、ここで測らずも出会ったのを幸いに、さざえのつぶての仇討となったかも知れない。果してそうであれば、傍杖を食ったおかみさんと自分はともあれ、主人が痛い目をみるのは是非ない事かとも思われた。いずれにしても元来た道を引っ返すのは危険である。庄五郎の忠告にしたがって、鎌倉をまわって帰るのが無事あろうと、義助は宿へ帰ると直ぐにお杉を別座敷へ呼んだ。
義助の話を聞いて、お杉も眉を皺めた。誰の考えも同じことで、かのお安がそういう素姓の女であれば、おそらく何かの約束を破って自分を振り捨てたという怨みであろうと、お杉も想像した。しかも今更そんな論議をしても仕方がない。差しあたりは危険を避けて鎌倉へまわるに如くはないと、かれも義助の意見に同意することになった。
雨は降りつづけている。この頃の長い日も早く暮れて、宿の女中が燭台を運んで来た。海の音もだんだんに高くなった。
「お江戸の小泉さんの旦那にお目にかかりたいと申して、女の人が見えました。」
女中の取次を聞いて、お杉と義助は顔を見合せた。殊にそれが女であるというので、二人は何だかぎょっとした。