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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
御迷惑でも暫くお聴きください。」
一座のうちには拍手する者もあった。
「では、読みます。」と、言いながら主人はその原稿の二、三行に眼を通した。「ははあ、自叙体に書いてある。このうち私というのはT自身のことで、その友人の森君という人との交渉を書いたものらしく思われます。まあ、読んでいったら判りましょう。」
主人は原稿をひろげて読みはじめた。
「この降りに、出かけるのかい。」
わたしは庭の八つ手の大きい葉を青黒く染めている六月の雨の色をながめながら、森君の方を見かえった。森君の机のそばには小さい旅行カバンが置かれてあった。
「なに、ちっとぐらい降っても構わない。思い立ったら、いつでも出かけるよ。」と、森君は巻煙草をくゆらしながら笑っていた。
森君の旅行好きは私たちの友達仲間でも有名であった。暇さえあれば二日でも三日でも、時によればふた月でも三月でも、それからそれへと飛んであるく。したがって、ちっとぐらいの雨や風を念頭に置いていないのも当然であった。
「これからすぐに出掛けるのか。そうして今度はどっちの方角だ。」と、わたしも笑いながら訊いた。
「久しぶりで猪苗代から会津の方へ行ってみようと思っている。