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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
さらに見まわせば、老人の道楽にてたくさんに飼いたるいろいろの小鳥の籠はひとつも見えず。お父さんはどうしたと重ねて問えば、お冬さんは微かな声で、奥に寝ていますという。鳥籠はどうしたときけば、鳥はみんな放してやりましたという。なにか子細がありそうなれど、この上の詮議もならねばそのままにして別れる。晴れて今日は俄かに暑くなる。――午後再び散歩。大谷川のほとりまで行って引っ返して来ると、お冬さんの店にはかの磯貝という紳士が腰をかけて、何か笑いながら話している。お冬さんの顔は鬼女のごとく、幽霊のごとく、たとえん方もなく物凄し。宿に帰れば宇都宮の田島さんより郵便来たり、今夜からあしたにかけて泊りがけで遊びに来いという。すぐに支度して行く。
田島さんというのは森君の友人で、宇都宮で新聞記者をしている人であった。森君も九日の午後の汽車で宇都宮に着いて、公園に近い田島さんの家に一泊したことは日記に詳しく書いてあるが、この物語には不必要であるからここに紹介しない。とにかく森君は翌十日も田島さんの家で暮らした。その晩帰るつもりであったところを、無理にひきとめられてもうひと晩泊った。