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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

「なんでもそのお春という女には内所の色男があって、きのうもそこへ逢いに行く途中で、あんなことになったらしいというんですよ。」

「それじゃあ、その男というのがこの辺にいるんでしょうか。」と、となりの左官屋のむすめが訊きました。

「大方そうでしょうよ。うっかり出て来ると面倒だと思って、知らん顔をして引っ込んでいるんでしょうが、そんな不人情なことをすると、女の恨みがおそろしいじゃありませんか。女の思いが蛇と一緒になって執りつかれた日にゃあ、大抵の男も参ってしまいまさあね。」と、おかみさんはまた笑いました。

家へはいって、わたくしは母にそっと話しますと、母は考えていました。

「それにしても、まさかに叔父さんがその相手じゃあるまい。」

「そうでしょうねえ。」

「そりゃ男のことだから何ともいえないけれど、叔父さんは四十一で、親子ほども年が違うんだからねえ。」と、母はあくまでもそれを信じないような口ぶりでした。

叔父がその女の相手であるかないかは別として、ともかくも叔父がその女を識っているのは事実ですから、叔父が帰って来れば恐らく詳しいことも判るだろうと思われました。母はけさも会津屋へ出かけて行きましたが、叔父もお定もやはり音沙汰なしだというのでございます。