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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
まさかに親殺しではあるまいが、今戸の中田屋の一件がまだ解決していないので、あるいはその係合いではないかという噂であった。
番屋へ牽かれた千生は、根が度胸のない人間であるから手先に嚇されて何もかも正直に申立てたので、捕り方は直ぐに金龍山下へむかったが、清元の師匠はもう影を隠して、小女ひとりがぼんやりと留守番をしていた。お熊の申立てによると、延津弥も千鳥の葬式にゆくと言って、身支度をして出たままで帰らないという。おそらく田原町まで行く途中、長之助が挙げられた噂を聞いて、千鳥へも行かず、自宅へも帰らず、どこかへ逃亡したのであろうと察せられた。
それから三日目の夜である。橋場の渡し番庄作のせがれ庄吉が近所へ遊びに行って、四つ(午後十時)に近い頃に帰って来ると、渡し小屋から少し距れた川端に誰かの話し声がきこえた。暗いので顔は見えないが、その声が男と女であることは直ぐに判ったので、年のわかい庄吉は一種の好奇心から足音を忍ばせて近寄った。かれは柳のかげに隠れて窺っていると、男は小声に力をこめて言った。
「じゃあ、どうしても帰らねえというのか。」
「帰らないよ。誰が帰るものか。