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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
勿論、それが本当の馬であるかどうかは判らないのであるが、仮りにそれを馬と決めておいて、かれらはそれを馬狩りと唱えた。馬狩りの群れは二、三人幾組にも分れて、川筋から里につづく要所要所に待ち伏せをしたが、月の明かるい夜にはかの嘶きが決して聞えないで、いつも暗い夜に限られているために、その正体を見届けるのが頗る困難であった。殊にそれが水から出て来るのか山の方から出て来るのか、その足跡がいろいろに乱れているので、確かなことは判らなかった。しかしその声は川の方からきこえ始めるような場合が多いので、それは海から川づたいに上って来るのであろうということになったが、かの馬は決して続けて啼かない。続けて啼けば、その声をしるべに尋ね寄ることも出来るのであるが、その嘶くような吠えるような声は、最初から終りまで僅かに三声か四声である。したがって、声のする方角へ駈け付けても、そこにはもうそれらしい物の気配もしないのである。
何分にも暗くてはどうにもならないので、かれらは松明を持って出る事にすると、その夜には一度も嘶きの声が聞えなかった。怪しい馬は火の光りを恐れて姿を現さないらしいのである。