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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
そうして、暗いなかを手あたり次第に斬り廻ったが、刃に触れるものは菜の葉や菜の花ばかりで、一向にそれらしい手ごたえはなかった。耳を澄ましてその足音を聞き定めようとしたが、あいにくに降りしきる雨の音に妨げられて、それも判らなかった。
「残念だな。」
がっかりして突っ立っているところへ三、四人が駈けつけて来た。それは第三の組の倉橋伝十郎と粕屋甚七と、案内の者どもであった。かれらはあの怪しい叫びを聞き付けて駈け集まったのであるが、もうおそかった。伝十郎も口惜しがったが、取り分けて甚七は残念がった。彼は宵の恥辱をすすごうとして、火縄をむやみに振って駈けまわったが、結局くたびれ損に終った。
第三の組ばかりでなく、第一第二の組もおいおいに駈け付けた。そうして、たいまつを照らしてそこらを探し廻った。それもやはり不成功に終ったので、よんどころなく本陣にしている次郎兵衛後家の家へいったん引揚げることになった。ここで初めて発見されたのは、茂左衛門の左の手に幾筋の長い毛を掴んでいたことであった。
いつどうしてこんなものを掴んだのか、自分にも確かな記憶はない。だんだん考えてみると、暗いなかを無暗に斬っているあいだに、何物かを掴んだことがあるようにも思われる。