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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
西の方は高い崖になっていて、その上は樹木の生い茂った小山である。与力といってもよほど内福の家であったとみえて、湯殿はもちろん、米つき場までも出来ていて、大きい土蔵が二戸前もある。こう書くとなかなか立派らしいが、江戸時代にもかなり住み荒らしてあった上に、聞くところによれば、主人は維新の際に脱走して越後へ行った。官軍が江戸へはいった時におとなしく帰順した者は、その家屋敷もすべて無事であったが、脱走して官軍に抵抗した者は当然その家屋敷を捨てて行かなければならない。そこで、ここの主人は他の脱走者の例にならって、その屋敷を多年出入りの商人にゆずり渡して行ったのである。この場合、ゆずり渡しというのは名義だけで、大抵はただでくれて行く。それに対して、貰った方では饒別として心ばかりの金を贈る。ただそれだけのことで遣り取りが済んだのであるが、明治の初年にはこんな空屋敷を買う者もない。借りる者も少ないので、新しい持主もほとんど持てあましの形で幾年間を打捨てて置いた。
こういう事情で建ちぐされのままになっていた空屋敷を、わたしの父がやすく買取って、それに幾らかの手入れをして住んでいたのであるから、今から考えるとあまり居ごころのよい家ではなかったらしい。