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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
夏になると、蛇がむやみに這い出して、時には軒先からぶらりと長く下がって来ることがある。まったく始末におえない。
前置きが少し長くなったが、これらの話はそういう場所で起ったものであると思って貰いたい。その年の八月、西郷隆盛がいよいよ日向の国に追い籠められたという噂が伝えられた頃である。わたしの家の庭内で毎晩がさがさという音が聞えるというので、女中たちはまた怖がりはじめた。なんでも夜がふけると、人か獣か、庭内を忍びあるくというのである。その当時、わたしの家庭は父と母と姉とわたしと、ほかに女中二人であったが、姉とわたしは子供と赤ん坊であるから問題にはならない。男というのは父ひとりで、ほかはみな女ばかりであるから、なにかの事があると一倍に騒ぎ立てるようにもなる。それがうるさいので、父ももう打捨てては置かれなくなった。
「おおかた野良犬でも這い込むのだろう。」
こうは言いながらも、ともかくもそれを実験するために、父はひと晩眠らずに張番していた。それには八月だから都合がいい。残暑の折柄、涼みがてらに起きていることにして、家内の者はいつものように寝かしつけて置いて、父ひとりが縁側の雨戸二、三枚を細目にあけて、庭いっぱいの虫の声を聞きながら、しずかに団扇を使っていた。