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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

泰山に立ちて

流の行末をのみ見つめていた彼は、今や、眼を転じて遙かに流の源を見やった。そして考えた。

(生命の泉は無尽蔵である。顔回は死んだ。自分もやがて死ぬであろう。しかし、天の意志はやむ時がない。古聖の道は永遠に亡びないであろう。)

太陽はその余光を一ひらの雲に残して、草原に沈んだ。河原は暗くなった。然し孔子の胸には、既にその時、明日の朝日が燦々と輝き出していた。彼は童子を促して歩を移しながら云った。

「おお水が流れる、流れる。夜となく昼となく水があのように流れて行く。あの水のように、天の意志は息む時なく、永遠に流れて行くであろう。」

1 顔淵死す。子曰く、噫、天予(われ)を喪(ほろぼ)せり、天予を喪せりと。(先進篇)

2 顔淵死す。子之を哭して慟す。従者曰く、子慟せりと。曰く。慟すること有りしか。夫の人の爲に慟するに非ずして誰の爲にかせんと。(先進篇)

泰山に立ちて

子曰く、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えずと。――為政篇――

孔子は、泰山のいただきに立って、ふりそそぐ光の中に、默然として遠くを見つめている。