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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「ついうっかりしていた」
「銀杏も大きくなった」
と正晴君は縁側から見上げた。赤ん坊の時、猿に抱かれて天辺まで登った木だ。当人の正晴君は知らないが、十ばかり年上の玉男さんはその折の大騒ぎを能く覚えている。
食事中、お父さんの茂作さんは、
「お祖父さんが生きていたら、嘸喜ぶだろうにな」
と思い出した。
「昨夜は久しぶりで夢に見ましたよ」
と正晴君は隠居に寝たのだった。
「早速お墓詣りをしてお出。俺も一緒に行こう」
「私も参ります」
とお母さんもイソ/\していた。彦平老人は正晴君が必ず大学を卒業するようにと神信心をしていたのである。絶筆になった手紙も東京の岡村さんへ正晴君の修業について頼んだものだった。
「お祖父さんは幾つでしょうね? 若し生きていたら」
「八十六か七でしょうよ」
「七だよ。去年死んだ藤右衛門が八十五で村中の年嵩だったが、あれより一つ上だったから」
とお父さんが説明した。
「それじゃ迚もむずかしいです」
「然う思って諦めるさ」
「お父さんはお幾つになりましたか?」
と正晴君は親父の年がいつもアヤフヤだ。
「五十九だ」
「いつもそれくらいですね」
「そんなことがあるものか。