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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

冷飯は残っているはずだし、酒の燗くらいはおれだってつけられる」

「済みませんね、親分にそんなことまでさしちゃ」

「お世辞をいう間があったら、火でも起してくれよ。お客様をコキ使っちゃ悪いが」

「ヘッ、違げえねえ」

平次と八五郎は、それでも何うにか膳の支度をしました。

男手の埒のあかない仕事で、差し向いで猪口を取ったのは、もう薄暗くなってから。

「姐さんは、遅いじゃありませんか。先刻ちょいと迎えに行くんでしたね」

「放っておけよ。暗くなれば、お袋が送って来るだろう」

平次は呑気そうにいいますが、さすがに留守中に外へ出たことのないお静のことを考えると、酒の味がホロ苦くなります。

暢気者のガラッ八も妙に沈んでしまいました。親分平次の恋女房お静は、八五郎に取っては永遠のベアトリーチェで、お静に万一のことがあれば、喜んで命を投げ出すかも知れない、八五郎の心意気だったのです。

内気で優しくて、何時までも娘々したお静、その清潔な美しさと、行き届いた世話女房ぶりは、親分の恋女房という、厳重な埒を据えて、八五郎の崇拝の敬慕の的だったところで、何んの不都合があるでしょう。

ホロ苦い酒が、一本二本と重なりました。