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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

「親と娘で揃って気が違えば世話あない、あたしゃ知らないよ、そんなこと」ごうつくはますます鼻の孔を上へ向けた、「断わっとくけどもね、あたしゃまっぴらだからね、いいかい、あたしゃ関係がないんだから」

「いいわよ、いいことよ阿母さん」

おわきはおわきでますます女めかすのであった。

「この人のことで阿母さんに迷惑は掛けなくってよ、……ねえおまえさん、さあ、あたしと一緒にいらっしゃいな、あたしのお部屋へいきましょう、ねえ、一緒にあっちへいきましょうよ」

「うへっ、鼻がでかいからどこかもって、いい気なものさ、そんなになにがなんなら天狗様でも婿に取ればいい」

ごうつくは、このように嘶くのであった。

閑話休題。吾助は多忙になった。彼は早速のところ奔走して、数年間に発刊されたる「武鑑」を買い集め、「井桁に橘」の紋と「よしちか」なる名とを捜し始めた。

周知の如く武鑑とは現代の紳士録の先駆的出版物であって、徳川一門から譜代外様の大名諸侯残らずその家の紋どころ、槍飾り馬標、領地江戸邸、各家の家族関係から重臣まで記載してある。そうしてその間には増刊的に、氏姓系譜とか官職名簿といったものも開板した。