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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
吾助は震えだした、「御自分の口から、この儂を御信頼あればこそ、秘中の秘をお漏らし、いや、いやお漏らしではない、お漏らしは後架でして頂く」
「ばかばかしい気でも違ったのかい」
ごうつくは厚い唇を反らせ、鼻の孔を上へ向けた。
「御信仰だかなんだか知らないが、どうせ拾って来るなら繩の切っ端でも拾って来るがいい、繩はおまんまを食わないからね、ふん、家へ置くなら食い扶持は、おまえさんの煙草銭から差引だよ」
「でもこの人の鼻、立派だわねえ」
臼であり色けちであるところのおわきは、真正面からこのお方の顔を眺め、特にその偉大なるところの逞しき鼻に、惹きつけられたものだろう。舌舐めずりをしながら妙な眼をした。
「鼻の大きい男は、なにかも大きいって云うじゃないの、それに、馬鹿のなんとかって、……いいわ阿母さん、この人の食い扶持はあたしが払うことにするわ」
ふしぎなことであるが、おわきは家庭に於ては女性的言語を弄するものだろう。これを聞いて母親ごうつくは酸いような顔をしたが、父親なる禿は俄かに膝を乗出したのである。
「そそ、それは儂の実はかねて思うところだ、それは頼む、そこのところは万難を排してひとつ、……まかり間違えばお部屋さま、とすれば儂とおたきは御幼君の、……なんに当るか、それは若君が御出産の上だけれども」