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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
「なにしろおめえ、昼間は禿とごうつくが掛ってて働かせるだろう、なにしろ千住の先から西は品川目黒のはてまで車を曳いて駆けまわらなけりゃあならねえ、それで餌はおめえ子供の弁当くれえしきゃ食わせねえ、三度が三度おかずは梅干か味噌か古たくわんの尻尾で、魚なんぞは月に一遍、それも目刺し一尾だってんだから、そしておめえ夜は夜であの臼だ、なあ金太」
「うん、……あれは聞いていて、誰もがよもやと思う、本当の事とは誰もが考えられないもんだ、おれはまさかと思った」
「三番めの幾次てえ婿だっけか、なにしろおめえ一と晩も欠かさず五度ずつ神輿のお渡りだてんだ、まるで搾木に掛けて種油をしぼるみてえに、うむを云わさねえてんだから、そしてちっとでも厭なそぶりをすると、厭なら出ていきな、役にも立たねえ者にむだ飯を食わしとくわけにゃあいかないんだから、こうぬかすんだからおどろきだ、なあ金太」
「うん、おどろきだ、まったく、……うん、そしてその婿の持って来た物はみんな取上げて、夫婦の小遣いは……、幾らだったか忘れたが、……それもあの臼が取上げちまって、湯銭も呉れねえということだったもんだ」