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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

おかしなことだが、小野十太夫がそんなふうにおちつかなくなるのは、土田といっしょのときに限っていた。ふだんでもどちらかというと気の早いほうだが、土田といっしょにいるときほどせっかちで、こらえ性のないような例はなかった。また土田正三郎も平生はもっと話をするし、動作や挙措もまわりの人たちと変ったところはなかった。それが十太夫といっしょにいるときだけは、まるで人が違ったように無口になり、することが鈍重になるのであった。しかも二人は「寝るとき以外ははなれたことがない」と云われるほど仲がよく、十太夫が念流修業のため江戸へいっていた三年間をのぞいて、およそ五歳のときから二十六歳になるまで、一日として顔を合わさない日はなかったのである。

土田の父は正兵衛といって、四百石あまりの中老。正三郎はまだ家督を取っていないが、奉行職記録所の頭取心得を命ぜられ、役料十人扶持を貰っている。長島藩は三万八千石、城代家老の忍田外記でさえ五百石とちょっとだから、土田の四百石は高禄の内にはいる。正三郎は一人息子で、妹が一人あったが、これは十二歳の年に死んだ。母親のなほは忍田氏の出であるが、この忍田は城代家老の分家であり、跡継ぎがないため絶家になっていた。