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こうやひじり
高野聖
泉 鏡花
「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页
紫の袈裟をかけて、七堂伽藍に住んだところで何ほどのこともあるまい、活仏様じゃというて、わあわあ拝まれれば人いきれで胸が悪くなるばかりか。
ちとお話もいかがじゃから、さっきはことを分けていいませなんだが、昨夜も白痴を寐かしつけると、婦人がまた炉のある処へやって来て、世の中へ苦労をしに出ようより、夏は涼しく、冬は暖い、この流に一所に私の傍においでなさいというてくれるし、まだまだそればかりでは自分に魔が魅したようじゃけれども、ここに我身で我身に言訳が出来るというのは、しきりに婦人が不便でならぬ、深山の孤家に白痴の伽をして言葉も通ぜず、日を経るに従うてものをいうことさえ忘れるような気がするというは何たる事!
殊に今朝も東雲に袂を振り切って別れようとすると、お名残惜しや、かような処にこうやって老朽ちる身の、再びお目にはかかられまい、いささ小川の水になりとも、どこぞで白桃の花が流れるのをご覧になったら、私の体が谷川に沈んで、ちぎれちぎれになったことと思え、といって悄れながら、なお深切に、道はただこの谷川の流れに沿うて行きさえすれば、どれほど遠くても里に出らるる、目の下近く水が躍って、滝になって落つるのを見たら、人家が近づいたと心を安んずるように、と気をつけて、孤家の見えなくなった辺で、指しをしてくれた。