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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

やまなかった。しかし、それを遂行するにも、白昼公然ではなく、いつも、夜陰、あるいは人目のない所で行われるので、世間は知らないが、家中では、そういう嫌疑者の多くを上げてくることが、すこぶる誉れであり、殿の首尾もめでたかった。

なぜか? ということは、この物語の進むにつれ、また、阿波の本体があばかれると同時に、おのずから明瞭になるであろう。

それはとにかく、啓之助の仲間が、今も、細かに時雨堂の様子を探ってきたところから、時分はよしと三十人近い黒装束、一度にムクムクと立ち上がった。

裏道を下りて、女坂の中途から右へ入ると、もう五尺と隔てては人影の見えない山神の森。そこを、ちりぢりに降りて、例の竹林へ入ると、やがて、この辺りにただ一軒の時雨堂の灯が見える。

「しッ……近いから静かにしろ」

「誰か、向うの空地へも忍んでおれ」

「心得た……。合図は? 手筈は?」

「天堂氏が、声をかけたら一度に斬りこむんだ」

こんな声が、笹の葉の音よりかすかに、ささやきあって、黒い影が、ヒラ、ヒラと地を掠り、いつか一人も見えなくなる……。

夜は深沈と更けた。

嵐の前のおそろしい静寂。