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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

乱刃

にしてみせる……」

思わず、吾とわがつぶやきに泪ぐまれて、男らしい唇をきっと結んだ。――と九鬼弥助は、その時、油断のない眼くばりで、すぐ銀五郎の足元から、口に手を当てた作り声で、

「唐草の親分……」

と、名を呼んだ。

乱刃

「唐草の親分」

不意に、床下から呼ぶ者があるので、銀五郎はぎょッとしたが、すぐに、自分にも似気ないおびえざまを恥じて、「誰だ」と、少し、身を屈めた。

怪しい者なら、向うから声をかける筈がない。この附近の竹林に住んでいる物乞いに、二、三度食べものを恵んでやったことがあるから、そのお菰であろうと気をゆるした。

「唐草の親分」

九鬼弥助は、また作り声で呼んでから、反対に、ジイと床下に身を退いていた。そして、肱と右足だけを、のめるように前へ出していた。

「誰だっていうのに、変な野郎じゃねえか。そんな所へ潜り込まれちゃ迷惑だぜ、ええオイ、おおかたいつものお菰さんだろう」

「へ……」

「へえじゃねえぜ、今頃来たって何もありゃしねえ」と、銀五郎は覗きもせずにいったが、ふと思いついたかの様子で、

「あ、そういやあお前は、あの虚無僧の姿を宵に見なかったかい。この雨に、どこかで降りこめられていると思うんだが、知っているなら、傘を持って行って上げてくれないか」