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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

江戸大火

おたみも向うで急いていた。

「そこにたしか、数珠梯子が垂れている筈です。――数珠梯子が」――と、そういわれて、お綱の目にフイと止まったのは、柱のかげに隠れて、上から垂れていた一本の縄。

向うから、教えたのはこれであろう。所々に、結びコブシが作られていて、攀じるに都合よくできている。

「あったでしょう。そこに」

「ええ!」こんどは、お綱もいきいきと返辞をして、

「ありましたよ! 縄梯子が」

「では、ようござんすね――」

と、念をおして、おたみはすぐに反古の山へ行燈の火をくつがえした。

ボッ――と、まっ黒に匍い揚がった煙をくぐって、乳母のおたみが、お綱がえぐり抜いた穴から、バタバタと逃げだしてきた。

途端に、お綱が、

「あッ、いけない!」絶望的な声をあげた。

お千絵様を先に――と思って引いた数珠縄の梯子が、どうしたのか、ぷッつり、断れてしまったのである。

奥の炎は、遠慮なく燃えだして、そこを、カーッと赤く照らしてきた。

江戸大火

縄の朽ちていた数珠梯子は、三人の望みを絶って、途中からプツリと切れ、お綱の手もとへ躍ってきた。

「あっ――」

「しまった!」

等しく悲痛そのものの声だ。