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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

逢引

弦之丞が岐路の迷いを離れたのも、銀五郎の血と熱に染め揚げられたようなものじゃ」

「わっしも江戸へまいりましたら、偽紫に染まないで、その真っ赤な男気ッてところにあやかりたいものでございます」

「おお……」と弦之丞は尺八を取り上げて、

「銀五郎の手向けに一曲吹こう、そちも別れに聞いてまいるがいい」

「あ、そいつはご勘弁願います。でなくてさえ先程から、俵様のご無念がおもわれたり、唐草親分の非業な姿が目について堪らねえところ――。この上哀れッぽい一節切を聞いた日には、嬶のことまで思いだしやす。泪のなの字も目明しにゃ禁物、一足お先へ押ッ放してお貰い申します」

怖い物から逃げるように、万吉は、道中笠を西日へ傾げて、禅定寺峠から江戸へ心を急がせて行った――。

逢引

机が一脚、寂然としてある。

柿の木から洩れる秋の陽が、古畳の目に明るく射していた。

あたりは草深い百姓家らしいが、その部屋の中は百姓家らしくなく、和漢の書籍だの、舶載のエレキテルだの、そうかと思うと、薬を刻む薬研が見えるし、机の上には下手な蘭字が書きかけてあり、異人墓の石のかけらがその文鎮になっている。

そして誰も人はいない。