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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「困ったなア、ひどい雨だ……」

青白い稲光りが庭を照らした。

「弦之丞様は、どこへ行っておしまいなされたのだろう。ちょっと声をかけて行けば、一走り傘を持って行ってあげるのに、町ならいいが山へでも行ったとすると、この雨にズブ濡れだろう。どうかしているぜ、弦之丞様は……妙にこの頃めいっているし、俺にもロクに話しかけたことがねえ……」

吹ッかける雨に向ってつぶやいていると、縁の下の九鬼弥助は、その戸がピッタリ閉まらないうちにと、ジリジリと、銀五郎の足もとへにじりだしてきた。

そっと体を横に捻って、床下から上を覗くと、銀五郎の半身は、濡るるを忘れて、弦之丞の帰りを気づかいながら、また独りごとを洩らしている。

「ひょっとしたら、この間、俺があまりくどく頼んだので、それを気にしているのかしら? それともお千絵様がさすがに恋しくなったのかな。いやいや、お千絵様の身を、それほどに思うお人なら、あれまでの俺の頼みをウンといわねえ筈がない。ああ、もう頼むめえ。頼むめえ。いくら腕のできる弦之丞様でも、薄情ときちゃアしかたがねえ。俺はどこまで一本立ち……。いや、捨てる神があれば助ける神だ、思いがけねえ人たちと力を協すことになったから、弦之丞様はあてにしねえで、この銀五郎の一心で、きッと阿波の内幕を探ってみせる! お千絵様の身もお幸せ