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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
と、手を引っ張って、人気のない所へしゃがみこんだ。隅田川の西河岸である。
猪牙舟がのぼる――猪牙舟がくだる――。
吉原がよいの舟である。
川向うは三囲の土手、枕橋から向島はちょうど墨絵の夕べである。宵闇を縫って、チラチラ飛んでゆく駕の灯も見えだしたが、まだ空も明るく川も明るかった。
陸へ上がった水鳥のように、そこへしゃがみこんだ十夜頭巾と自来也鞘。
だいぶ話に実が入ったとみえて、陽の落ちたのを忘れていたが、やがて孫兵衛が、
「いや、そういうわけか……」
と、聞き終って、腕組みをした両の袖に、三ツ鱗の紋が白く浮く。
「今話したこと――なにせよ、阿波の大秘事でござる。必ずとも、他言してくれては困る」
「浪人はしても、おれも元は阿波の原士だ。なんで国元の秘密をペラペラしゃべるものか」
と、お十夜も、一角の口から大阪表のことを、聞けば聞くほど不思議な思いに、たえなかった。
旧主の阿波守をめぐって、影絵のごとく動いている、法月弦之丞をはじめ常木鴻山や目明しの万吉や、それはみな、自分と妙な因縁をもっている者ばかりで、一角の話がいちいち自分の過去であるのが妙である。