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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「は、それは法月殿も、とくと心得ておりますし、拙者も、大事に大事をとって秘密を守っておりまする」

「そういう点からも、これを、密々お上のお耳にだけいれて、弦之丞が大公儀の隠密役となり、阿波へ探索に入りこむということは、何より、よい策のように考える。ただ弦之丞は大番頭法月一学の伜、公儀の隠密役としての御印可あるや否や、その点だけがちと心配であるが……」

「段々とありがたいお取り計らい、お礼の申しようもござりませぬ」と弦之丞は、この日、左京之介から何か重大な策を授けられたもののごとく、いんぎんに礼をのべて、

「この上は、少しも早く一月寺へ立ち帰り、委細の下書を作りました上、仰せのように致して、またのお沙汰を待ちまする。では、これにてお暇を……」と、立ちかけると、

「あいや」と左京之介が止めて、

「その話はすんだが、今日をよい機と存じて、鴻山がそちに一人の婦人と引き合わせると申している」

「弦之丞殿。それは先日お話しいたしたお千絵殿でござりますが……」と、常木鴻山は気の毒そうに語韻を沈めた。

「蘭薬を試み、いろいろ手当てを尽くしてみましたが、まだ幾分か乱心のところがあって、時折狂いだしまする。