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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

多市、今からてめえの腕前を頼んでおくぜ」

「鶴亀、いい当てるということがあら。第一、うちの親分は至ってたのもしくねえ」

「なぜ」

「こんな時の要害に、永の道中、大枚の金をわっしに持たせておくんだからな」

「ばかをいえ、それほどてめえの正直を買っているんだ」

「エエ詰らねえ、明日からは、少し小出しに費いこむこッた」無駄口を叩きながら、淀屋橋の上にかかると、土佐堀一帯、お蔵屋敷の白壁も見えだして、少しは気強い思いがある。

その二人は知らなかったが、堀川会所の蔭に潜んでいた、のしお頭巾の女の影はまたいつの間にか後ろをつけて、怪しい糸を手繰ってくるのだった。

「おや? ……」と、渡り越えた橋の袂で、待乳の多市、不意にギクリと足をすくめてしまった。

「親分、誰か来ますぜ、向うから」

「人の来るのに不思議はない。いい加減にしろよ、臆病者」

「だが、しっかり、目釘を湿していておくんなさいね」

「心配するな」笑いながら、さっさと足を進めると、なるほど河岸ッぷちの闇から、チャラリ、チャラリ……と雪踏を摺る音。

近づいた時、眸を大きくして見ると、侍だ。はっきり姿の見えない筈、上下黒ぞっきの着流しに、顔まで眉深なお十夜頭巾。