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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
「お千絵様、殿様はいつもこうおっしゃっておいででございます――」と、そばに侍く小間使がいうのである。
「ある時節がまいりますまで、あなたは松平家の御息女のおつもりで、夏は夏を、秋は秋をたのしんで、気を賑やかに、わがままに、こうしておいでになればよろしいのじゃと……」
「だって私は……」とお千絵は、慰められる言葉にいつも気が沈んで……。
「そんな気もちになっていられませぬ」
「なぜでございますか。殿様の仰せつけ、お気がねはいりませぬのに」
「でも、誰ひとりとして、私のたずねることに、はっきり返辞をしてくれたことがない」
「それは、お千絵様、あなたのお体を思うからでございます」
「……じゃあ私は……といっても、また教えてくれないかも知れぬが、どうして、この京都へくるようになったのでしょう?」
「別に深い意味でございませぬ。あなた様のお体を預かっている松平左京之介様が、京都の所司代にお更役になったので、それにつれて私たちまで、江戸のお下邸からこちらへ移ってまいりました」
「そして、よく私を慰めて下さった、常木鴻山様は?」
「御用があって、大阪表へお越しになったとやら? ……それもよくは存じませぬが」