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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

だが、彼は果して不二子の敵であったか。イヤイヤ決して敵ではなかった。実に驚くべきことには、その運転手は、敵どころか、味方も味方、彼女の恋人、黄金仮面であったのだ。

今までは鳥打帽をまぶかく外套の襟を立てて、後頭部を隠していたので、少しもそれと気づかなかったけれど、ヒョイと振返ったその顔は、まぎれもない黄金仮面、ギラギラ光る金色のお能面が、例の三日月型の唇で、ニヤリと笑ったのだ。

奇蹟だ。彼がいつの間に、本物の運転手を追い出して、この自動車に乗っていたのか。どう考えても不可能なことだ。あの部屋の窓から飛び出して、この自動車の停っていた場所へ来るのには、是非とも見通しの庭を通らねばならぬ。明智はそこを見張っていた。庭には誰もいなかったのだ。

流石の明智も、余りの不意うちにど胆を抜かれた体である。併し、意外も意外だが、今はそれどころではない。このさし迫った危地を、如何にして脱すべきかが問題だ。

というのは、黄金仮面は不二子から奪ったピストルを、そのまま明智にさしつけて、今にも発射しようと身構えているからである。

主客の地位が一瞬にして顛倒した。攻めていた明智が攻められるのだ。