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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

美子姫

いつ? どこへ? そして何を? 彼の目的物が常に財宝に限られているとは極まらぬ。若しや、あの人間離れのした無敵の腕力を振って、恐ろしい殺人罪を目論む様なことはないであろうか。気の弱い人達は、ふとそれを考えたばかりで、もう真青になって、どう防ぐすべもない大恐怖に、戦慄しないではいられなかった。

美子姫

この東京市民の恐怖は、当っていたし、又当っていなかった。というのは、怪賊は果して、僅々数日の後再び聞くも恐ろしい大犯罪を企てたが、その場所は、何という出没自在、意外にも東京から遠く離れた日光山中の、鷲尾侯爵家の宏壮な別邸内であった。

鷲尾侯は北国大藩の大名華族、本邸は東京にあるのだけれど、当主正俊氏は日光山中C湖畔の別邸を好んで、殆んど一年中そこに住み、同侯の有名な道楽、古美術品を納めた小美術館も、この別邸内に建てた程である。

十九歳の美子姫は、侯爵の一粒種、婦人雑誌、写真画報などで、姫の容姿に接したものは、その名状し難きあどけなさ、不思議な魅力をたたえた、夢見る如きまなざしに、うっとりせぬ者はなかった。

その日、姫は書斎の窓に凭れて、眼下に横わる、眠った様な湖水を眺めながら、物思いに耽っていた。