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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
の妖しき影は、それ程深く人々の心にしみ込んでいたのだ。殊に当のF国大使ルージェール伯は、読者も知る通り、嘗つて日光の鷲尾侯爵邸で、黄金仮面の魔力を、まのあたり見ている丈けに、この一片の予告状を、可成重大に考えたのも無理ではない。
「奴は来ると云ったら、きっと来ます」
波越警部は、従来の度々の経験で、それを信じ切っていた。
「久し振りで奴にお目にかかる訳ですね。今度こそは、逃がしません。奴を引括るか、でなければ辞職です」
彼は物々しい決心の色を浮べて、云い放った。
問題の十五日までには、五日間の余裕があった。その間に波越警部は、あらん限りの智恵をしぼって、万遺漏なく警戒準備をととのえた。無論大使邸にも度々足を運んで、大使にも面会し、建物の構造をも取調べた。
庁内をすぐって、優秀なる二十名の刑事隊が組織せられた。彼等は夫々大使館の下級吏員に、或は大使邸の書生、下男などに変装して、大夜会場の内外を警戒する手筈になっていた。
十四日には、旅行から帰った警視総監が、招待客の一人として、大夜会に出席し、それとなく部下の指揮に当ることが決定された。一盗賊の黄金仮面にとって、身に余る光栄と云わねばならぬ。