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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
半三郎が立ち直ったのはあだこのおかげだ、というのである。あだこは恥ずかしがって逃げようとし、みんなはむりにひき止めて盃を持たせた。そのとき十兵衛は気がついたのだ。いちど会っただけであるが、釜戸の煤を塗っていないあだこの顔が、見ちがえるほどきれいになり、美しくさえなっていることに驚き、それを不審そうに半三郎に糺した。
半三郎はわけを話したが、話しているうちにとつぜん笑いだし、笑いだすと止らなくなって、しまいには苦しさのあまり畳へ手をついて喘いだ。
「いや、心配するな、なんでもない」と彼は俯向いたまま四人に云った、「釜戸の煤となんのかかわりがあるかわからないが、ひょっと夫婦鼬のことを思いだしたんだ」
「なんだ、夫婦鼬とは」そう訊いたのは安部右京だった。
「その」と彼は俯向いたままで、用心ぶかく云った、「あだこの話なんだが、津軽の藩主の別墅に鼬がいて、それが夫婦で三十年の余もいっしょに棲んでいるんだが、う、その、どっちも年をとりすぎたので、男の鼬のほうは」
半三郎はまっ赤になり、喉を詰らせながらだめだと云った。
「だめだ、おれはだめだ」と彼は立ちながら云った、「あだこに聞いてくれ」