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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

七

七

半三郎は居間の机に片肱をつき、火の消えた火桶へ片手をかけたまま、ときどき口の中でなにか呟いたり、意味もなく首をかしげたり、また急に頭を振ったりした。――市兵衛が去ってから二刻以上になるだろう、窓の障子にさしている陽もうすづき、傾いていた。

市兵衛の話は彼をおどろかした。

かれらは曽我十兵衛とは関係なしに、あだこのために貸す気になったのだという。初めの日、あだこが米屋へいって、まず店のまわりの掃除をした。空き俵を集め、それを丹念にはたいて、残り米をきれいにおとした、俵十二枚から二合以上の米が出たという。それから俵をきちんと重ね、縄は縄、桟俵は桟俵とわけて纒め、藁屑を掃き集め、そして地面にこぼれている米を拾った。そういう米粒だけで五合もあり、それを市兵衛に渡してから初めて、小林だが米を貸してくれ、と云いだしたのだそうである。

市兵衛は彼女のすることを見ていて、それが単純なきげんとりではなく、なにかのっぴきならぬ理由があるのだと思い、わけを訊いてみた。そこであだこは話したのだ。半三郎が聞いた話と同じ内容であるが、――なお、これまで五たび奉公をしたこと。