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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

三

三

半三郎は一杯喰べただけで、茶碗と箸を置いた。六日も絶食したあとだから、いまはこれでやめるほうがいいと思ったのだ。

「もっとめしあがったらいがすべおん」と女が云った、「お口に合わないんですか」

「いや、うまかった」と彼は云った、「あとはまた晩にしよう、ここを片づけたらおまえ食事にするがいい」

だが半三郎は急に眼をあげて、不審そうに相手を見た、「――へんなことを訊くが、いったいこの米や魚はどうしたんだ」

「はい」と彼女はにこやかに答えた、「お米は米屋さんで借り、魚は魚銀さんで借り、醤油や味噌や砂糖や塩や酒は、伊賀屋さんで借りました。八百久さんからも野菜物をいろいろ借りましたから、晩の御膳には煮物に香の物もさしあげます」

半三郎は黙っていて、それからおそるおそる訊いた、「それは本当か」

「はい」と彼女はこっくりをした。

「信じられない」と彼は云った、「どの店も借が溜まっていて、もう半年以上まえからよりつかなかったんだ」

「そでしてすと」と彼女はにこにこしながら云った。「どこでもそんなことを云っていました、ずいぶんたくさん貸が溜まったままだって、米屋の主人は赤くなって、怒っていました」