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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
八
市兵衛は伊賀屋と魚銀とで話しあった。このままではおいそさんが可哀そうだ、いっそ貸すのはやめにして、おいそさんのことは三人で引受けよう。そう相談がきまったので、市兵衛が代表で話に来た。しかし旦那の云うことを聞くと、曽我とかいう人がうしろにいる、代銀はその人から出ている、と思いこんでいるようだ。本当にそう思いこんでいたのなら話も違ってくる、自分は考え直した。自分はこれからも米を持って来ようし、伊賀屋にも魚銀にもわけを話す。おそらくどっちも反対はしないだろう、これまでどおりに品を持って来ることになるだろう。
――だがそれは旦那のためではない、と市兵衛ははっきり云った。決して旦那のためではない、おいそさんに持って来るのだから、そこをよく覚えておいて下さい。
襖の向うから、市兵衛はそれだけのことを云い、云い終るとすぐに去っていった。半三郎はじっと横になったまま、市兵衛の去ってゆくもの音を聞いていたが、やがて起きあがると、立って洗面にゆき、戻って来るなり机に凭れて、考えこんだのであった。
八
あだこが帰ったとき、半三郎はいなかった。彼女は風呂を焚きつけ、夕餉の支度をした。