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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

「ほんとよたあさま、いやっちゃい、ちばめがおちかけたのよ、早くよ、ねえかあかん」

「よしよしわかった」高雄は子供に笑いかけて頷ずいた、――「父さまはいま御用があるから、母さんと先にいっておいで、あとからすぐにゆくよ」

おいちはとびたつように立った。まるで囚われた者が解放されたように、大助を抱きあげて小走りに出ていった。

高雄は窓のほうへ向きなおり、机へ片手を投げだしながら溜息をついた。ふしぎなことに彼自身も救われたような気持だった、それは不決断でありみれんであるかもしれない、単に時間を延ばしたにすぎないのであるが、彼はほっとして、もう少し待ってみようと思った。――人間はみなそれぞれの過去をもっている、ただ現在の事実だけで責任を問うわけにはいかない、男女関係は特に微妙なのだ、もう少しようすをみていよう、こう考えたのであった。

おいちはまもなく戻って来た。大助を抱いたまま、廊下からおずおずと云った。

「脇玄関の中へ燕が巣をかけましたの、払わなければいけませんでしょうか」

「そのままでいいだろう」高雄はこう云いながら、振返って子供を見た、「――そうか、おちというのはお巣のことだったのか、大さんの云うことはわからないねえ」